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福岡高等裁判所 昭和39年(う)495号 決定

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕各控訴趣意について判断するに先立ち、原審および当審において取り調べた証拠に基いて、被告人らの本件行為(以下本件順法斗争という。)についての当裁判所の基本的見解を明らかにしておくこととする。

一 本件順法斗争は威力業務妨害罪の構成要件に該当するか。

単に日本国有鉄道(以下国鉄という。)の職員が同盟罷業を行つたとしても、威力業務妨害罪の構成要件に該当するとはいえないが、本件第一ないし第四現場における本件順法斗争において、被告人ら(もつとも、一部の被告人が関与していない現場もある。)は、進行しようとする機関車の進行方向の線路上または転車台の運転室の入口に、他の日本国有鉄道機関車労働組合(以下機労という。)の動員組合員約二〇名ないし約五〇名と共謀して、ピケを張つて立ち塞がり、機関車の進行を阻止しまたは誘導掛の転車台運転室への入室を阻止したのであるから、被告人らの本件第一ないし第四現場における本件順法斗争は威力業務妨害罪の構成要件に該当するものというべきである。

二 公共企業体等労働関係法(以下公労法という。)第一七条は憲法第二八条、第九八条第二項に違反するか。

公共企業体である国鉄の職員に対しても憲法第二八条の労働基本権は保障されているのであるが、政府の資本金により公法上の法人として広範な規模の事業を行う国鉄の性格、事業経営の実体を考えると、その業務の停廃は国民経済と国民全体の福利に重大な影響を及ぼすものであるから、国鉄の職員および組合の争議行為を禁止し、これに違反した場合、職員を解雇できることとし、職員および組合が民事上の損害賠償責任を負うものとすることは、憲法第二八条の保障する国鉄の職員および組合の労働基本権に内在する制約としてやむをえないものといわなければならない。そして、争議行為を禁止する代償措置としての公労法上の仲裁委員会の裁定が政府を拘束しないのであるが、仲裁委員会の裁定によつて国鉄の職員および組合は争議行為の一効果を得ることができるものといえるので、前記の国鉄の性格、事業経営の実体に照すと、仲裁委員会の裁定が政府を拘束しないからといつて、公労法第一七条が憲法に違反するとはいえない。

また、ILO第一〇五号条約は、我が国のいまだ批准していないところであり、国際慣習法を形成しているともいえないので、公労法第一七条が、右条約に違反しているとしても、憲法第九八条第二項に違反するとはいえない。

三 公労法第一七条違反の争議行為に労働組合法(以下労組法という。)第一条第二項の刑事免責規定の適用があるか。

公共企業体の職員に対しても憲法第二八条の労働基本権は保障されているのであつて、ただ公共企業体の性格、事業経営の実体に照し、その労働基本権がそれに内在する制約を受けることのあるのはやむをえないところであるが、憲法の保障する労働基本権の制約であるから、慎重にその制約を考え、明文上の規定に反してその制約を課することのないようにしなくてはならない。そして、公労法は、同法第一七条違反の争議行為をした公共企業体の職員を同法第一八条により解雇できることとし、同法第三条第一項において公共企業体の職員に関する労働関係について民事免責規定である労組法第八条の適用を排除しながら、同じく公労法第三条第一項において刑事免責規定である労組法第一条第二項の適用を排除していないのである。したがつて、公労法第一七条違反の争議行為についても、労組法第一条第二項の刑事免責規定の適用があり、労働組合の行為として正当なものは違法性が阻却されるものである。すると、原判決が、公労法第一七条違反の争議行為には労組法第一条第二項の刑事免責規定の適用はないとし、さらに、争議行為に公共の福祉に反するものと反しないものとがあり、公共の福祉に反する争議行為は公労法第一七条違反の争議行為として労組法第一条第二項の刑事免責規定の適用がないが、公共の福祉に反しない争議行為は公労法第一七条の争議行為ではなく労組法第一条第二項の刑事免責規定の適用があるとしているのは、相当でない。そして、結局本件順法斗争が公労法第一七条の争議行為に当るかどうかということは、本件順法斗争の刑事責任を論ずる上では実益のない議論であり、この点については本件順法斗争に労組法第一条第二項の正当性があるかどうかについて検討すれば足りることとなる。

四 本件順法斗争には労組法第一条第二項の正当性があるか。

公共企業体の職員および組合の争議行為といえども、労組法第一条第二項の刑事免責規定の適用があり、その労働組合の行為としての正当性を検討しなければならないのであるが、労働関係は集団的かつ流動的なものであるから、その正当性は、一律に論ずることはできず、個々の事案に応じ具体的に、諸般の事情からみて社会通念上相当なものであるかどうかによつて決するより外はない。そして、いわゆる順法斗争といわれるものにも、種々の型態があり、一律にその労働組合の行為としての正当性を論ずることは不可能であるが、本件順法斗争のような国鉄の順法斗争についていえば、まずそれが労働組合の主張を貫徹する目的を有することが必要である。さらに、そもそも、国鉄は高速度交通機関としてその業務が定時に大量になされることが国民経済上および国民全体の福利上望ましいことではあるが、それにもまして重要なことはその業務が常に安全に運営されることであり、国鉄当局が定めた安全確保に関する規程(昭和二六年六月二八日総裁達第三〇七号)もその綱領において、「1安全は輸送業務の最大の使命である。2安全の確保は、規程の遵守および執務の厳正から始まり、不断の修練によつて築きあげられる。3確認の励行と連絡の徹底は、安全の確保に最も大切である。4安全確保のためには、職責をこえて一致協力しなければならない。5疑わしいときは手落なく考えて、最も安全と認められるみちを採らなければならない。」としているのである。したがつて、国鉄の職員および組合は、自らまた乗客等の第三者の人身財産の安全を守るため、その職務上安全を確保するための諸規定を最大限に尊重すべき義務があるものであり、このことはまた国鉄の職員の労働条件にも関することである。すると、国鉄の業務が右諸規定に違反している場合に、国鉄の職員または組合がその是正を求めることは目的において正当なものというべきである。しかしながら、右の目的において正当であるとしても、右諸規定違反にも種々の態様があるのであるから、右規定違反があるからといつて、如何なる手段をもつてしてもその是正を求めてよいというものではない。そして、国鉄の職員または乗客等の第三者の人身事故を招く危険性のある規定違反(以下単に安全規定違反という。)がある場合、これを取り上げて、その違反の種類、程度に応じて相当と認められる時期、手段で、その違反を当局者に是正させまたは是正を確約させるため国鉄の業務を妨害することは、正当なものと解すべきである。しかしながら、右安全規定違反でない規定違反があるような場合は、国鉄の職員は、自らその業務を拒否するなり、関係上司に申し出るなり、苦情処理(公労法第一二条)によるなりすべきであつて、業務を妨害することは、正当なものとはいえない。

以上の観点に立つて本件順法斗争の正当性をみるに、その目的は団交再開、昇給一〇〇パーセント、年末手当二箇月分、新賃金、要員獲得という機労の主張を貫徹することを目的としたものである。そして、本件第一現場における本件順法斗争の機関車の授受地点違反、石炭上積み立会規定違反の主張については、規定違反があつたとはいえず、かりに規定違反があつたとしても、その規定違反は安全規定違反とはいえないので、本件第一現場における本件順法斗為は正当なものであつたとはいえない。本件第二現場における本件順法斗争の順法要求の対象である機関車の速度計の不設置は、安全規定違反であり、是正方法も当局者が是正を確約する間のみ機関車の進行を阻止したに過ぎないから、本件第二現場における本件順法斗争は正当なものであつたというべきである。本件第三、第四現場における本件順法斗争の順法要求の対象である転車台運転室の電流計の電気回路への不接続、二〇六号転てつ器の瑕疵は、規定違反ではあるが、その規定違反は安全規定違反であるとはいえないので、本件第三、第四現場における本件順法斗争は正当なものであつたとはいえない。したがつて、原判決が本件第一現場における本件順法斗為に正当性なしとし、本件第二現場における本件順法斗争に正当性ありとしたのは相当であるが、本件第三、第四現場における本件順法斗争に正当性ありとしたは相当でない。

弁護人らの控訴趣意第一点(事実誤認)、第二点(法令適用の誤り)について。

所論は、本件第一現場における順法斗争の正当性について、(一)まず、原判決は、本件機関車は駅と機関区との境界点である一旦停止標の南方長崎機関区寄り約三、四米付近に停車し、そこから長崎駅勤務操車掛古賀義寛が誘導しようとしていたと認定しているが、本件機関車は一旦停止標の南方機関区寄り約五米に停車していたものであつて、原判決には事実の誤認がある。(二)つぎに、原判決は機関車を一旦停止標の約五米手前に停車させるのは労働慣行であつたとしているが、そのような労働慣行はなかつたものであつて、原判決には事実の誤認がある。(三)さらに、原判決が長崎駅と長崎機関区との駅区協定は、入出区機関車の授受に関し機関区の誘導掛と駅の操車掛との間の機関車の授受地点を明らかにしたに止まり、機関区の誘導掛および駅の操車掛の職務に関する規定は、両者の職務内容を明らかにしたに止まるものであつて、これにより両者の作業範囲を厳格に規制し、一方が他方の境界内で作業を行うことを厳に禁止しているものとはとうてい解せられないとし、また、一旦停止標は列車を一旦停止させる必要のあるときに設けられるものであつて、本件第一現場に設置された駅区境界点である一旦停止標もまた、入出区機関車の授受が機関区の誘導掛と駅の操車掛との間で一旦停車のうえ、安全かつ円滑に行われることを主眼として設けられているものと解すべきであるから、入出区の機関車が一旦停止標付近で停止し、その授受が安全かつ円滑に行われれば、右設置の法意にかなうものといわなければならないとしているのは、駅区協定、一旦停止標の規定の性格についての解釈適用を誤つたものである、というのである。

そこで、原審および当審において取り調べた証拠によつて検討するに、本件順法斗争の正当性については冒頭四前段のように解するのであるが、長崎駅と長崎機関区との駅区協定、機関区の誘導掛および駅の操車掛の職務に関する規定、一旦停止標に関する規定は、原判示のとおり入出区の機関車が一旦停止標付近で停止し、機関区の誘導排と駅の操車掛との間の授受が安全かつ円滑に行われれば足り、その停車位置が一旦停止標を約五米離れていたとしても、右規定に違反しているともいえないし、かりに違反しているとしても、人身事故を招く危険性のある安全規定違反ともいえないので、本件第一現場における本件順法斗争には正当性はない。したがつて、当時本件機関車が本件一旦停止標から三、四米離れていたか約五米離れていたとか、本件一旦停止標から約五米離れて停車するのが労働慣行であつたかどうかとかは、本件第一現場における本件順法斗争の正当性には関係がない。論旨は理由がない。

同第三点(事実誤認、法令適用の誤り)、第四点(法令適用の誤り)について。

所論は、本件第一現場における順法斗争の正当性について、(一)まず、原判決は、門司鉄道管理局運輸部制定の蒸気機関車乗務員作業基準(以下作業基準という。)第一三条が本件順法斗争の直前の昭和三二年一〇月五日改正されたとし、右改正作業基準によれば当時石炭上積み立会についての規定違反はなかつたとしているが、右改正は、当時未だ機関士等に周知されていなかつたので、拘束力なく、したがつて改正前の作業基準により石炭上積み立会についての規定違反ありやを判断しなければならないものであつて、原判決は事実を誤認し、その結果法令の解釈適用を誤つているものである。(二)つぎに、作業基準とこれを具体化した長崎機関区作業内規(以下作業内規という。)とは、作業内規が作業基準よりも厳格な作業方式を規定している場合は、作業内規が守られなければならないのであるが、前記作業基準の改正にもかかわらず、作業内規は改正されていなかつたものであり、作業内規は改正された作業基準よりも厳格に石炭積込みに乗務機関士の立会を要することと定めていたものである。したがつて、改正された作業基準によつて石炭上積み立会についての規定違反はないとした原判決は、事実を誤認したか、または法令の解釈適用を誤つたものである。(三)さらに、原判決は長崎機関区では庫付機関士の立会のみで石炭の上積みが行われるのが従来の労働慣行であつたとしているが、そのような労働慣行はなかつたものであつて、原判決は事実を誤認したか、または法令の解釈適用を誤つている。(四)また、原判決は、石炭上積み立会規定の趣旨は、石炭の消費量を明確にするためのものであるから、庫内機関士が石炭の上積みに立ち会つておれば、必ずしも乗務機関士の立会を要しないとして、石炭上積み立会規定は安全運転確保の見地とは無関係であるという根本的立場に立つているで、乗務機関士が石炭上積みに立ち会うことは安全運転確保の見地から本質的に要請されるところであつて、原判決は法令の解釈適用を誤つている、というのである。

そこで、原審および当審において取り調べた証拠によつて検討するに、本件順法斗争の正当性については冒頭四前段のように解するのであるが、前記改正前の作業基準第一三条によつても石炭授受の立会は庫内機関士ではなく乗務機関士でなければならないとも解されず、作業内規の庫内機関士の項16も、この規定は庫内機関士に関する規定であるし、その内容も意味不明の点があり、必ずしも乗務機関士が立ち会つて炭水手と石炭の授受をしなければならないとも読めず、作業内規の乗務員、炭水手の項に乗務機関士は炭水手との石炭授受に立ち会わなければならないという規定もないので、結局作業内規によつても炭水手との石炭授受に乗務機関士が立ち会わなければならないとはいえない。したがつて、炭水手との石炭授受に乗務機関士が立ち会わないからといつて規定違反があるとはいえない。のみならず、石炭上積み立会規定は、原示のとおり石炭の消費量を明確にするためのものであつて、かりに規定に違反しているとしても、人身事故を招く危険性のある安全規定違反ともいえないし、また、原審証人田口辰雄の各供述(第三三回、第三五回公判期日)によれば、原判示のとおり長崎機関区では庫付機関士の立会のみで石炭の上積みが行われることもあるのは従来の労働慣行であつたことを認めることができるので、本件第一現場における本件順法斗争には正当性はない。論旨は理由がない。<中略>

同第一の二の(一)(事事誤認)について。

所論は、本件第二ないし第四現場における本件順法斗争は公労法第一七条違反の争議行為であつて、労組法第一条第二項の正当性を論ずる余地はないが、かりに原判決のようにその正当性を論ずる余地があるとしても、原判決が本件第二ないし第四現場における本件順法斗争に正当性があるとしている前提事実について事実の誤認があり、その正当性があつたとはいえない。すなわち、(一)原判決は、本件順法斗争の正当性を論ずに当り、まず、目的の正当性を認め、その目的として団体交渉再開要求のみをことさら取り上げて判断しているが、本件順法斗争は、団体交渉再開を目的とするのみでなく、臨時国会に対する補正予算を組ませる斗いであり、院外斗争を組織したものであつたのであるから、本件順法斗争はその目的において正当性があつたとはいえない。(二)原判決は、機労の本件順法斗争の目的は団体交渉再開にあり、国鉄当局が本件当時機労との団体交渉を全面的に拒否していた理由は、「団体交渉は労働協約を結ぶために行われるものであり、その調印は組合代表者となされなければならないところ、機労が公労法第一八条によつて解雇された者を組合代表者に選出した結果、公労法第四条第三項に違反し、公労法上適法な組合の代表者を欠くに至つたため、労働協約の締結能力を欠く組合と団体交渉しても意味がなく、また団体交渉を拒否したからといつて不当労働行為にならない。」というのであつたが、公労法第四条第三項は憲法第二八条に違反する疑いが濃厚であるし、かりにしからずとするも、被解雇者は当時解雇の効力を争い、裁判所に対し雇傭関係存在確認訴訟を提起していたのであるから解雇の効力が確定するまでは、国鉄当局は機労の求める団体交渉に応ずる義務があつたとし、機労が団体交渉再開を要求したのは正当であつたとしている。しかしながら、公労法第四条第三項は憲法第二八条に違反するものではなく、また、本件解雇は、行政処分の性質を有するので、旧行政事件訴訟特例法第一〇条によりその効力を停止されることはなく、本件解雇が私法上の意思表示であるとしても、仮処分命令が発せられない限り、その効果に消長はないので、国鉄当局が団体交渉を拒否したのは適法な行為であつたのであるから、原判決のいうように本件順法斗争の目的を団体交渉再開のみであるとしても、本件順法斗争はその目的において正当性があつたとはいえない。(三)原判決は、当時の情勢下において、組合の機関たる被告人らが、組合の指令に接し、本件順法斗争に出る以外、他の行動を期待することはできなかつたことを、本件順法斗争に正当性のあることの一理由としているが、団体交渉再開についての当時の経過からみて、機労は、団体交渉を再開するには、公労法第四条第三項に相当する代表者を選出するなり、いわゆる藤林あつ旋案のとおり臨時代表を選出すればよかつたもので、本件順法斗争のような違法な争議行為をとらずとも、団体交渉は再開できたものであり、鉄道従事員が具体的業務の遂行に当つて安全度に危惧を感じたときは、その従事員において直接上司に通報し組織内の責任体制に従つて処理するか、「苦情処理に関する協約」によつて解決されるべきであつたのであるから、本件順法斗争には正当性があつたとはいえない。(四)原判決は、(1)本件第二現場における被告人らの機関車の速度計取付けの順法要求に関し、当局に対し速度計の設置が義務付けられているものといわなければならないとし、(2)本件第三現場における被告人らの電流計取付けの順法要求に関し、転車台運転室の電流計を常に完全なる状態に整備しておくことは運転の安全を確保するため必要不可欠なものといわなければならないとし、(3)本件第四現場における被告人の順法要求に関し、本件の二〇六号転てつ器の尖端軌条の下部で床鈑と摺動する部分と床鈑との間に人差指が入る位の隙間があつたので安全に関する法規に違反する瑕疵があつたものといわなければならないとし、いずれも国鉄総裁達や門司鉄道管理局達等を根拠としている。しかしながら、右通達等は法規としての性質を持つものではなく、具体的実情に即し適宜通達等を緩和して実情に副つた運営をすることも許されているのであつて、かりに通達等に違反したからといつて、ただちに違法とはいえない。のみならず、本件第二ないし第四現場における順法要求の対象には安全運転確保のための差し迫つた危険はなかつたものである。すなわち、(1)本件第二現場における順法要求については、機関車を速度計なく運転しても、機関士に対する速度観測についての厳格な訓練、機関士の経験年数と技術、当局側の平素の運営状況等により差し迫つた危険はなく、まして本件機関車は入換用機関車であつたから、なおさら差し迫つた危険はなかつた。(2)本件第三現場における順法要求については、原判決も電流計が危険の発生を防止する安全装置の機能を持たないものであることを認めているのであつて、電流計が電気回路に接続されていなかつたからといつて、差し迫つた危険はなかつた。(3)本件第四現場における順法要求については、原判決も二〇六号転てつ器には線路検査施行要領の線路検査規定実施細目の判定基準によれば不良といえないものであることを認めており、差し迫つた危険はなかつた。したがつて、本件第二ないし第四現場における順法斗争には正当性があつたとはいえない。(五)本件順法斗争の要求は真摯なものではなかつたもので、正当性があつたとはいえない。すなわち、本件順法斗争は、団交再開、昇給一〇〇パーセント、年末手当二箇月分、新賃金、要員獲得のための院外斗争として国鉄の業務運営を二時間の職場大会を行うと同等に阻害することを目的としたもので、真摯なものではなかつた、というのである。

そこで、原審および当審において取り調べた証拠によつて検討するに、本件順法斗争は、団交再開、昇給一〇〇パーセント、年末手当二箇月分、新賃金、要員獲得という機労の主張を貫徹するという目的においては正当なものであつたというべきである。そして、原判決が改正前の公労法第四条第三項が憲法第二八条に違反する疑いがあるとしたのはともかく、原判決が被解雇者が雇傭関係存在確認訴訟を提起したことをもつて本件解雇の効力が発生しないかの如く解したのは、本件解雇を行政処分と解するにせよ私法上の意思表示と解するにせよ、相当でないが、国鉄当局に改正前の公労法第四条第三項の見解を改めて団体交渉に応ずるよう求めることもできたというべきであるから、団体交渉再開を本件順法斗争の目的としたことは正当なものであつたというべきである。したがつて、本件順法斗争の目的を原判決のように団体交渉再開のみにあるかの如く解したとしても、本件順法斗争は目的においては正当なものであり、その他に前記の目的があつたのであるから、本件順法斗争は目的においては正当なものであり、それが結果的に国鉄の予算上の法性格から国会に対する補正予算を組ませるための院外斗争となつたとしても、やむをえないところであり、本件順法斗争が真摯なものでなかつたとはいえない。論旨(一)、(二)、(五)は理由がない。

そこで、本件第二ないし第四現場における本件順法斗争が正当なものであつたかについて個別的にみることとする。本件順法斗争の正当性については冒頭四前段のように解するが、(1)まず、本件第二現場における本件順法斗争についてみるに、その順法要求の対象である機関車に速度計が設置されていないことは、原判示の諸規定に違反するものであり、巨大な重量をもち、客車、貨車を牽引する高速度交通機関である機関車が、専用軌道を走るとはいえ、速度計を設置せずに運転されることは、人身事故を招く危険性のある安全規定違反であり、このことは、その機関車が入換用機関車であるとしても、同様に解すべきであるのみならず、入換用機関車についても速度計が必要であることは原判示のとおりであり、当審証人弓削田雅人の供述によつても駅構内の運転事故に速度観測の誤りに基くものがあることを認めることができる。したがつて、機関車に速度計の取付けを求め、当局がその取付けを確約する間、機関車の進路上にピケを張つて立ち塞がり、機関車の出区を約七分程度遅延させることはその手段においても正当なものであつたというべきである。(2)つぎに、本件第三現場における本件順法斗争についてみるに、その順法要求の対象である転車台運転室の電流計が電気回路に接続されていないことは、原判示の諸規定に違反するものと考えられるが、転車台の運転士を過大電流が流れることによる危険から救う安全装置としてヒューズがあり、人の身体に影響のある過大電流が流れた場合も運転士が電流計をみて転車台から立ち退き危険を防止する時間的余裕はなく、結局電流計は運転士の危険を防止する装置ではなく、また、本件電流計は運転士の右側上部に取り付けてあつて運転にもほとんど利用されていなかつたものであるから、右規定違反は人身事故を招く危険性のある安全規定違反とはいえないので、本件第三現場における本件順法斗争は正当なものであつたとはいえない。(3)最後に、本件第四現場における本件順法斗争についてみるに、その順法要求の対象である二〇六号転てつ器の尖端軌条の下部で床鈑と摺動する部分と床鈑との間に人差指が入る位のすき間があることは、原判示の転轍器及轍叉製作仕様書の二五の(4)の規定に違反するものではあるが、当審証人柳瀬良正の各供述(三回)をあわせ考えると、右違反があつても、安全運転には影響はなく、転てつ器の検査に関する規定である線路検査規程の実施を定めた線路検査規程実施細目の判定基準によれば、二〇六号転てつ器の右状態は不良のものではなく、その他の転てつ器の検査に関する規定によつても、同じく不良のものではなかつたのであるから、右規定違反は人身事故を招く危険性のある安全規定違反とはいえないので、本件第四現場における本件順法斗争は正当なものであつたとはいえない。そして、被告人らが本件第三、第四現場における本件順法斗争に出る以外他の行動を期待することができなかつたとはいえず、本件第二現場における本件順法斗争が正当なものである以上、被告人らがそれ以外他の行動に出ること期待することができたかは問題ではない。

したがつて、本件第三、第四現場における本件順法斗争に正当性があつたとする原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認があり、原判決はこの点において破棄を免れず、本件第三、第四現場における順法斗争についての論旨(三)、(四)は理由があるが、本件第二現場における順法斗争についての論旨(三)、(四)は理由がない。

同第一の二の(二)(法令適用の誤り)について。

所論は、原判決は、公共企業体の職員および組合のする争議行為に公共の福祉に反するものと反しないものとがあり、公共の福祉に反する争議行為は公労法第一七条違反の争議行為として労組法第一条第二項の刑事免責規定の適用はないが、公共の福祉に反しない争議行為は公労法第一七条の争議行為ではなく労組法第一条第二項の刑事免責規定の適用があるとし、本件第二ないし第四現場における本件順法斗争は、公労法第一七条違反の争議行為ではなく、労組法第一条第二項の正当性があるとしている。しかしながら、公労法第一七条は、公共企業体の職員および組合に一切の争議行為を禁止し、これに労組法第一条第二項の刑事免責規定の適用はないとするものと解すべきである。したがつて、争議行為に公共の福祉に反するものと反しないものとがあるとし、公共の福祉に反しない争議行為に労組法第一条第二項の刑事免責規定の適用があるとした原判決は、公共企業体の職員および組合の争議行為に労組法第一条第二項の刑事免責規定の適用があるとしたことに帰するので、結局公労法第一七条の解釈適用を誤つている、というのである。

そこで、検討するに、原判決が公労法第一七条違反の争議行為に刑事免責規定の適用がないとしたのは、冒頭三のとおり相当ではない。しかしながら、公労法第一七条違反の争議行為についても労組法第一条第二項の刑事免責規定の適用があり、その正当性を論ずべきものと解するのであるが、原判決は、結局本件第二ないし第四現場における本件順法斗争について労組法第一条第二項の正当性を論じているのであるから、相当である。論旨は理由がない。(塚本富士男 安東勝 矢頭直哉)

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